浅草オペラ ボッカチオ

浅草オペラ 「ボッカチオ」


こんにちは、音楽雑貨店プレリュード店長でアマチュアファゴット吹きの藤岡です。
芸術の秋もそろそろ終盤、みなさま音楽をお楽しみになっていますか?

ひと月ほど前になりますが、店長は再興された浅草オペラを観劇してまいりました。
「浅草」というのは、あの雷門のある、あの「浅草」。あまりオペラとは関連がなさそうなイメージがあります。 そして演目は、スッペ作曲 喜歌劇「ボッカチオ」、オペレッタです。浅草オペラという言葉は、正直 初耳だったのですが、どうやら大正デモクラシーの頃、日本を席捲したオペラ文化が浅草に花開いていたそうなのです。

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実のところ、プレリュード店長はオペラやオペレッタには全くの初心者で、演奏会形式のものや、ガラコンサートに数回行ったことがある他は、ビデオで少々観劇したに過ぎません。高校時分からずっと興味はあったのですが、なんとなくオペラには敷居が高い感じもあり、管弦楽曲としても有名なオペラ曲を聴いたり演奏したりに限られていました。

更にスッペと言えば、「軽騎兵序曲」や「詩人と農夫」しか思い出せず、今回の演目「ボッカチオ」という言葉とつながらない・・・ ボッカチオと言えばデカメロン、でもデカメロンがなんだったかさえ思い出せない、デカメロンは社会科で、走れメロスは国語科だったような・・・そんなレベルです。果たしてこの予備知識の低さで高尚なるオペレッタを楽しむことが出来るのか、少々不安に感じつつ、浅草公会堂に足を運びました。

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雷門が近づいてくると、やはり浅草、すごい人出です。そしてその賑やかな雰囲気は下町っぽさに満ちています。チンドン屋さんがでているあたりも、ホントに浅草っぽいなあ〜と思いつつ近づいていくと、チンドン屋さんが首から提げているポスターがなんと【ボッカチオ!】。オペラ興業にもチンドン屋さんが活躍している辺り、ただものではありません。先ほどの不安が消し飛び、私にも楽しめそうな予感がしてきました。

浅草公会堂は、1,000名ほどのちょっと小振りながら、歌舞伎も上映される有名なホール、中は満員のお客さんで熱気に満ちています。開幕するや親しみやすい演出と素晴らしい演奏、演技であっという間の全2幕でした。

というのも、スッペのオリジナルを踏襲しながら、日本的な要素、現代的な要素がふんだんに取り入れられ、練り上げられ、とても楽しい音楽芝居に仕上げられていたのです。

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私の個人的な感性ですが、日本語上演したクラシックの声楽曲を聴くと、その訳詞の歌が、ちょっと小恥ずかしくて照れくさかったり、日本人の肌感覚とは離れたように感じてしまったりで、醒めてしまうことがあります。カルミナ・ブラーナとか、第九とか・・・同じ言葉でも、詩として訳詞を読むのと、声として聴くのと違って感じるのです。

ところが今回聴いた浅草オペラでは、あまりに日本文化と上手く練り上げられているので、その違和感が無く、言語の壁を越えて舞台の世界に入り込めて行けたのです。これは新しい発見でした。もちろん演出だけでなく、出演者の素晴らしい歌唱と演技によるものです。例えば、恋のお話ですから随所に一目惚れするシーンがでてくるのですが、かぶりつきで観ているこっちが惚れてしまいそうなほどに・・・
正統派のオペラファン(原語のまま楽しめてしまう方々)は、眉をひそめるかもしれませんが、時代や国に合わせてアレンジされたオペラというのも、生きている音楽・芸術の好例だと感じました。

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そして、劇中の所々に素晴らしいアリアなど沢山の歌曲が出てくるのですが、「恋はやさしい野辺の花よ」をはじめ、それぞれ聞き覚えがある曲が多かったのに驚きました。いまでは日本の歌曲かと思いこんでしまっているような名曲の数々が、浅草オペラによって日本に紹介され、大正時代から歌い継がれてきたと知ったとき、また別の感動におそわれたのでした。

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オペレッタですから、お話の筋書きは純文学ではなく大衆文学で純粋に楽しい恋物語なのですが、スッペオリジナルのボッカチオとの比較や、他のオペラの歌曲や、紀友則石川啄木の短歌がそれとなく引用されたりして、これを受け止められる造詣があれば、より一層楽しめる奥深さがありました。そして造詣が無くてもそれとわかるように演出されているところも難い!です。(他のオペラを知らない店長にはうってつけの演出でした。)

またオケはオケピットではなく舞台中央後方に陣取り、その前が歌手が歌い演技するようになっていたので、指揮者は進行する舞台と背中合わせなのですが、指揮の榊原先生は要所で振り向きながら歌の流れに合わせて棒を振り、その揺れる棒にオケが絶妙に合わせる、という難しいことをやっていました。

そんなわけで、若手実力派歌手のみなさんと浅草オペラ合唱団の熱演、上野浅草室内管弦楽団のしっかりしたサポートで、とても素晴らしい一夜でした。次の公演にも必ず行きたいと思います。



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そして浅草から横浜への帰途、商業主義に支配されたメディアを自宅で気軽に楽しめる現代と、浅草の劇場で新しい文化が生み出されている瞬間を目撃できた大正時代と、どちらが文化的に恵まれていたのだろう?なんて考えさせられてしまいました。
もとい、今だってアンチ商業至上主義で、文化創造に骨身を注いでいる人たちがたくさんいますよね、そういった方々を応援していけるプレリュードになりたいと思います。

最後になりましたが、今回の機会を与えてくださった丸山様に、深く感謝申し上げます。


● 出演者の皆さま(敬称略):

フィアメッタ:竹内直美
ペロネラ:柏原美緒
ベアトリーチェ:栗田真帆
ボッカチオ:竹内雅拳
ピエトロ:布施雅也
ランベルトゥッチョ:宇野徹哉
レオネット:志田雄二
披露目屋:原田勇雅

合唱:浅草オペラ合唱団
オーケストラ:上野浅草室内管弦楽団
指揮・音楽監督:榊原徹
演出:藤代暁子/武藤圭生